『未来で待ってて』(士→弓)

 何となくFateというか士→弓小話。…ギャグだから。
 赤く焦げ付いた空を割って、士郎は荒廃した大地に飛び降りた。
 見渡す限り、墓標のような剣が聳え続ける痛ましい世界。けれど、此処は彼の世界だ。この中に、士郎が追い続けた男がいる。
剣に埋もれるように立ち尽くす人影を見つけると、士郎は居並ぶ剣群を蹴倒して駆け寄った。
「…アーチャー!」
――ようやく、逢えた…!
 共に過ごした時間は、それほど長いものじゃなかった。その貴重で短い間でさえ、反発するばかりでろくに歩み寄ることもできなかった。それでも、この背中を追いかけて、追い続けて、士郎はその生涯を駆け抜けたのだ。長く苦しい旅路を、この男に追いつくために。胸を張ってアーチャーに逢うため、ひたすら己を鍛えつづけた。
 また会える確証なんて何もなかったけれど、諦めることは出来なかった。アーチャーと同じ道を辿らないように、アーチャーの後を追って…そして、今再び、巡り会えた。
「アーチャー…!」
「衛宮、士郎…?」
 久しぶりに聞く、アーチャーの声。一日だって、忘れたことなんてなかった。
光を弾く鈍色の瞳に自分の顔が映っていて、感極まった士郎は求め続けた男に飛びついた。
「貴様…ッ、」
「アーチャー、俺っ、俺、お前に、」
――あれ?
 士郎は、目の前の男を力強く抱きしめようとした。だが、アーチャーをその胸に抱き留めたはずの士郎の頭は、逆に逞しい胸板に埋まっていた。…巨乳に顔を埋めて喜んでいる場合ではない。嫌な予感に突き動かされて視線を上げると、頭一つ分高い位置にアーチャーの顔があった。…つまり、士郎の方が、アーチャーより頭一つ背が低かった。
――そ ん な ば か な。
「…おい?衛宮士郎、どうした?」
 アーチャーの方は、いきなり現れるなり挙動の不審な士郎を純粋にいぶかしんでいる。彼我の身長差に違和感はないようだ。それはそうだろう。アーチャーがサーヴァントとして士郎と共に在った頃、まさにこの位置関係にあったのだから。
 だが、高校卒業後、遅すぎる成長期が訪れて士郎の身体は縦にも横にも成長した。いちいち測定などしてはいなかったけれど、同じ遺伝子なのだから、てっきりアーチャーと同程度まで伸びたものだと思い込んでいたのだが。
「そ、んな…。」
――アーチャーに負けないくらい強くなって、かっこよくなって迎えに行くという男の夢がロマンがぁ~!!

…せめて、ランサーくらいは伸びたかった…。

 己の理想に裏切られた衛宮士郎は、力無くうなだれて枯れた大地に膝をついた。


「なんでさぁあああああ!!!………ハッ。」

 …自分の叫び声で、士郎は目覚めた。

――ゆ、夢…っ。
 見慣れた天井を茫然と眺めて、此処がアーチャーの固有結界ではなく衛宮邸の自室だと気付いた。まだ心臓がバクバクと煩い。掌にべったりと脂汗をかいていた。
隣に視線を向けると、自身のサーヴァントである弓兵がぐったりと褐色の手足を投げ出して眠っていた。

「…よ、良かった。夢で。」
 士郎には、まだ時間が、未来がある。既に英霊として完成してしまっているアーチャーと違って、伸び代があるのだ。これからの(食)生活と努力次第では、士郎がアーチャー(の背)を追い越すことも不可能ではない。逆に、アーチャーに追いつかないまま終わる可能性もある。
「アーチャー…。」
――本当に…、俺に出来るのか…?
 布団から上半身を起こしたまま、眠るアーチャーを見つめる。士郎が起き上がったせいで、捲れた掛布団から裸の上半身がまだ薄暗い朝日に晒されていた。
戦うために鍛え抜かれた体躯は惚れ惚れするほど美しかった。どれだけ自分を苛め抜けば、ただの人間がこれほど見事な肉体を得られるのか。曲がりなりにも平和な日本で育った今の士郎には、想像も出来なかった。
額にかかった前髪をそっと払おうとしたところで、アーチャーの目蓋が開いた。
「…もう起きるのか、マスター。」
「あ、いや…。悪い、寒いよな。」
 サーヴァントに暑いも寒いもないだろうが、士郎にとってアーチャーの肌は朝から目の毒すぎた。再び床に横たわり、肩まで布団で覆い隠す。素肌が重なるほどぴったり寄り添っても、アーチャーは嫌な顔はおろか文句ひとつ言わない。紆余曲折の末、魔術の師である遠坂凛からマスター権を譲り受けて以来、アーチャーは驚くほど士郎に従順だった。求められれば忌憚のない意見を述べるものの、マスターである士郎の意向には基本的に逆らわない。アーチャーを手に入れたその晩、これ幸いと寝所に引っ張り込んだときですら、僅かに体を強張らせただけで抵抗らしい抵抗もしなかった。
 勢いと欲望に任せて貪ること数週間。魔力供給と称するにも白々しいほど連日抱き潰した。
すっかり主従での共寝が習慣づいた頃、男に、よりによって士郎に抱かれることが嫌ではないのかと今更ながら聞いてみた。アーチャー曰く、魔術師として難のある衛宮士郎をマスターとして認めてしまった時点で、いずれこうなると覚悟していた。契約したその日のうちに、というのは少々驚いたが、嫌なことを先延ばしにしても得るものはない。気が進まないことでも必要ならばと素早く対応した点は評価している、と。
結局イヤなんじゃないか、とは思ったが、だからといって止めてやるつもりはなかった。アーチャーの存在を維持するための魔力供給という意味でも、士郎自身の個人的な性的欲求という意味でも。
 どうもアーチャーは“自分とは異なる道を選んだ衛宮士郎”という存在を買い被っているというか美化している気がして、ならばどこまで受け入れるのかと、半ば調子に乗って色々させてみたのだが…今に至るまで、アーチャーが士郎を拒絶することはなかった。上に乗って動いてくれ、と無茶振りしたときですら、羞恥に頬を染めてはいたが逆らうことなく士郎の上で腰を振ってみせた。よっぽど恥ずかしかったのか、目尻に涙を滲ませて、たどたどしく奉仕する姿は絶品だった。下から見上げると、肌の色の違いから士郎の肉棒がアーチャーの中を出入りする様がくっきりと見て取れて、すっかり騎乗位が気に入った士郎は一晩に最低一回は上で動いてもらっている。
 雄として屈辱的な行為でもアーチャーが大人しく受け入れるのは、それだけ衛宮士郎という人間に期待しているからだ。現時点でマスターとして不足していても、人間としてアーチャーが出来なかったことを成し遂げてくれると。青田買いもいいところだが、好きな相手の期待には応えたい。出世払いで報酬を受け取っているようなものなのに、ヤるだけヤっておいて失望されたくはなかった。
――正義の味方として、無銭飲食なんて御免だ。
「アーチャー!」
「な、何だ。」
 士郎の勢いに押されて、アーチャーが僅かに後ずさる。布団からはみ出そうになったので、士郎が肩を掴んで腕の中に引き寄せた。
「…俺は、必ずお前に追いついてみせる!絶対にだ!」
「…!」
 その真剣な眼差しに呑まれたのか、アーチャーは目を見張って士郎を見つめ返した。
「…そうか。ならば、期待して待っている。マスター。」
「ああ!」
――今日から毎日牛乳1リットルだ!あと、海産物と、…。
 士郎の目には恋情が、アーチャーの目には信愛が滲み出ている。元が同じとはいえ、今や完全に別物。お互いの心まで察知できないことは、どちらにとっても幸いなことであった。



                                                                           …終。
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Author:みねず あおい
日々の溜息と絶叫を綴っている日記(更新記録も此処)。史上最強の弟子や星矢Ωの感想を投下。最近はアンリミコミカライズの感想も書いてます。

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